「その目標が達成できなかったらかなりヤバいことがわかった?」
「はい・・・。」
裕二はスマホを見つめて言った。
「冨田さんは何て書いたとね。」
松田さんが声をかける。
口に出すのも恥ずかしい。
「口に出した方が叶うわよ。」
ママが言うので裕二は観念した。
「お金を貯める、です。」
「ほお。それができんかったらどうなるん。」
「き、響子ちゃんと結婚できない・・・。」
「そら大変やな。貯めんとな。」
松田さんは大きくうなずいた。裕二もうなずいた。
こんなに達成できないとヤバい目標は、人生で初めてかも。
裕二はしみじみと考えた。
思えば、大学も就職もそんなに深く考えて入ったわけではない。
市況が良かったので大卒男子は贅沢さえ言わなければ内定がもらえた。
世の中の景気が良かったのと、メーカーのブランド戦略とで、車の営業もあまり苦労なくノルマは達成できていた。
「目標が明確になったところで、収入が決まっているから、支出をどうにかしないとね。」
ママが松田さんにおかわりのウィスキーを出しながら言った。
「そうやな。PDCA回さんとな。」
松田さんがグラスを持ち、一口飲んで言った。
PDCA、それくらいは僕も知っている。
「お金を貯めるPDCAですか。」
とりあえず5000円の積み立てが来月から始まるが、それだけではどうしようもないことは裕二にもわかる。
だが、次に具体的にどうしていったらいいのかわからない。
「いったい、いくら貯めたいわけ?ゴール設定しないと計画も立てられないわよ。」
そうだ。僕はいったいいくらあれば安心なのか。
「全然想像がつきません。結納金100万円が途方もない金額に思えて。あの~。」
裕二は恐る恐る尋ねた。
「結納金ってローンじゃダメなんですか。」
「ダメに決まってるでしょ。何言ってんの?」
ママは語気を強めた。怖い。
「お、ところでええ時計しとるやん。」
松田さんは、裕二の腕時計を見て褒めた。