「いつがいい?例のバー。」
いきなり小久保は聞いてきた。
「すみません、お忙しいのに。」
響子は恥ずかしくて顔を上げられない。
「いや、いいよ。俺、今週はわりとゆっくりしてるから。」
「私も特に平日用事があるわけではないので。小久保さんのご都合に合わせます。バーが混む時間の前に連れていってもらえますか。」
「ちょっと待ってて。」
小久保はスマホを取り出してスケジュールをチェックした。
「今週だったら木曜はどうかな。さっとご飯食べて8時前にバーにいけばそこまで混んでないと思うよ。あ、二人だとあれだから、川崎さんも一緒に。」
「あ、はい、麻子、いえ川崎さんに聞いてみます。」
「私だったらOKよ。中洲だったら、博多座の近くに美味しいそば屋があるからそこでごはん食べましょうよ。」
いつの間にか麻子がニコニコしながら後ろから声をかけてきた。
「じゃあ決まり。仕事終わったら、速攻で出よう。」
小久保はスマホに予定を入れながら言った。
「天ぷらと日本酒は最高よね。」
と麻子は言い、予約しておくね、と言って控室に戻った。
木曜日。
最近銀行は働き方改革とやらで、よほどでない限り残業禁止となっている。
おかげで用事があるときは出やすいのだが、仕事が溜まっているときは、融資担当などは朝7時くらいから出勤して事務処理をやっているという。
ものすごく早寝早起きになったと小久保は笑っていた。
響子たちが勤める大日本銀行博多駅東支店は、博多駅から徒歩15分ほどだ。福岡市営地下鉄の東比恵駅の方が近い。
合同庁舎や飲食店、中小の会社がひしめくところである。
「中洲川端で降りるとすぐだから地下鉄で行こ。」
17時30分の終業とともに、制服を着替えて響子と麻子は地下鉄へ向かった。地下鉄ホームの入り口で小久保が先に待っていた。
3人は地下鉄の中洲川端駅で降り、博多座方面のエスカレーターに乗って地上へ出た。
「こっちよ。」
麻子が先導しながら歩く。バス通りからすぐ左に曲がると「仁伊島」というそば屋に着いた。
ここで天ぷらとそばを食べながら、響子は小久保に裕二の話をした。
「そりゃ和田さんがまず叱られるだろうな。」