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コンビニが好きすぎる彼
「こんばんは。」
和田響子がバーのドアを開けると、ママがこちらを見て
「あら、いらっしゃいませ。」
と笑顔で言った。
続いて冨田裕二が入ると
「あっ。」
とママと裕二は同時に声を上げた。
「えっ、何、知り合い?」
響子は驚いてママと裕二を交互に見た。
「まあまあ、冨田さん。どうぞこちらに。」
「なりこママって、秋山さんでしたか。」
カウンター席に座り、おしぼりを受け取りながら裕二は頭を下げた。
「私、冨田さんから車を買ったのよ。ロードスター。」
「えー?」
響子は心底驚いていた。
「僕、春日支店に配属になって、旦那さんがよくロードスターを見に来てて、奥さんがうんと言わないと買えないからって。確かヘル、なんだっけ。」
「ヘルシオね。」
ママが間髪をいれず言う。
「そう、ヘルシオってオーブンレンジ買うからその分負けてって。なつかしいなあ。僕あのとき初めてロードスター売ったんですよ。あの時、秋山さんは会社で働いてらしたと記憶してますが。」
「あれからいろいろあってね。」
ママが、ふっと暗い顔をしたのを響子は見逃さなかった。
「お飲み物は?」
裕二はハイボール、響子は桃のカクテルを頼んだ。
「こんな偶然があるとはね。」
「これも縁ね。」
3人は乾杯した。
「それで、冨田さんは今日休み?水曜日はディーラー休みでしたっけ。」
ママは穏やかに尋ねた。
「毎週じゃないけど、今日は休みでした。」
「ふ~ん、今日何してたの。」
「えっと、特に何もしてませんよ。朝ゆっくり起きて、コンビニに行って、戻って洗濯して・・。お昼にまたコンビニに行って。ああ、もう一回行ったな、コンビニ。」
響子は、まさかまたキャッシング?と驚いて
「えっなんで?」
と言った。裕二が初めてのデートで、コンビニATMからキャッシングで現金をおろしていたことは、銀行員の響子にとって衝撃の思い出だ。