小久保に続き響子たちは恐る恐る店内に入る。カウンターとテーブル席が1つ。カウンターは6、7人でいっぱいだろう。意外と明るめの照明だ。
まだ時間が早かったため、店内には誰もいない。
「こんばんは。今日は職場の後輩2人を連れてきました。こちらが和田さん、こちらが川崎さん。」
と小久保はママに2人を紹介した。
「いらっしゃいませ、この店のママのなりこです。」
なりこママは冷たいおしぼりを1人ずつに手渡した。
ママは、ほっそりと背が高く見える。アイボリーのノースリーブワンピースからスッと伸びた腕、おしぼりに添えた指が細く白い。
髪は小池栄子のように少し外はねのボブだ。
銀色のイヤリングが似合う。
歳はいくつくらいだろう。アラフィフかな。
響子はぼんやり銀行のお局様たちと比べて思った。う~ん、同じアラフィフとは思えないな。
「お飲み物は?」
小久保はウィスキーのロックを頼み、響子たちはメニューを眺めて
「私はモヒート。響子は?」
「じゃあ、カシスオレンジをお願いします。」
はい、とママは言い、手早く飲み物の準備を始めた。
「で、お金に無頓着な彼氏を持っているのはどちらなの?」
といきなりママが切り出した。
響子はすぐさま隣の小久保の顔を見た。
あわてる響子を見て、
「あーこちらの女性ね。えーと和田さんだったかしら。」
ママは微笑んだ。
「小久保さん、話したんですか?」
響子は小声で小久保に言う。
「ああ、その方が早いから。」
小久保は屈託もなく言った。
小久保を挟んで左に座っていた麻子はクスリと笑った。
3人の注文の飲み物がそれぞれの目の前に出された。
「じゃ乾杯。」
という小久保の声に、響子は何に?と思いながらグラスをそっと近づけてカチッと鳴らした。
「ディーラーの彼、そんなにお金がないの?」
ママはいきなり核心に迫る。
「いやあの、この前初めてデートした時に、いきなりキャッシングしてたので驚いて。たまたま取れた日曜日の休みが給料日前だったみたいで。」
「へえ、銀行員の彼女の前でね。よほど無頓着なのね。」
ママは、笑顔だけど、目が笑ってない。怖いよ、と響子は心の中でつぶやく。
「悪いこと言わないから、その彼辞めときなさい。たぶん一事が万事、行き当たりばったりじゃないの?」
「えっでもいつもマメに連絡くれるし、優しいし。」
小久保は、なんだ、好きなのかよと心の中で呟いた。
「なんだ、好きなんだ。」
同じタイミングでママが言葉にしたので、小久保は驚いてママを見た。ママも小久保を見た。