やべ、ママは俺が和田響子に気があることを察知してる。
小久保はママから目線を外して、手に持ったグラスの氷を眺めていた。
麻子はそれぞれの表情を見比べながら、いちいち納得して、ふ~ん、そうなんだ~とニヤニヤしていた。
響子は、好きなんだ、と指摘されてドキドキしていた。
確かにお金に無頓着で、価値観が合わない人なら、もう気にする必要もない。
だけど裕二と話すのは楽しいし、さすが営業なのかも知れないけれど、こまめにLINEが来るし、電話もくれるし、とにかくマメなのだ。
例えば疲れた、と愚痴ると、甘い物食べて元気だしてね、とメッセージとともに、LINEからミスタードーナツのギフト券が飛んでくる。
原資がキャッシングかもと思うと、少し躊躇するが、休みが合わなくて直接会えなくても、離れている感じがしない。
「その彼が、どれだけ雑なお金の使い方してるのかわからないから、なんとも言えないわね。今度その彼連れていらっしゃい。その彼が和田さんに本気かどうか、宿題を出すから。」
「宿題ですか?」
響子は口にしたカシスオレンジがむせて、咳をしてしまった。
「大丈夫?」
小久保が響子の背中を軽く叩いた。
「だ、大丈夫です。」
響子は、バッグからハンカチを取り出して口をぬぐった。
その時、カラン、とドアが開き、男性が1人入ってきた。
「いらっしゃいませ。」
「そろそろ混む時間帯かも。明日も仕事だし。」
麻子は小久保に小声で言った。
「そうだな。ママ、ちょっとこの2人を下まで送ってくる。」
「小久保さんは?」
麻子は、小久保に尋ねた。
「俺はもう少し飲んで帰るよ。さっきの商店街まで送れば帰れるね。」
「はい、ありがとうございます。」
響子と麻子は立ち上がった。
「じゃ、ママ。すぐ戻ります。」
「ええ。ありがとうございました。またいらっしゃい。」
3人が、どやどやといなくなり、バーはママと先ほどの男性だけになった。
エレベーターを降り、ビルを出て来た道を戻る。行きがけより、中洲の人通りは増えていた。
博多川の橋まで来た。渡ると先ほどの商店街だ。
「ここで大丈夫です。小久保さん、今日はありがとうございました。ごちそうさまでした。」
「ああ、気を付けてね。また明日。」
「はい、失礼します。」