猪瀬直樹著『救出』

猪瀬直樹著『救出』

あの日

3.11のあの日。私は福岡で、緊急速報が職場に入り、TVを見て呆然としていた。
ほどなく、非常呼集がかかり、職場は臨戦態勢に入って行った。
夫はその日からずっと泊まり。
息子の小学校の卒業式は私一人で出た。
事務方の仕事はすべてがやり直し、その対応に追われた。

あの日、偶然が重なって助けられた気仙沼の公民館に取り残された446人の物語が、猪瀬さんによって綴られた。
この本は、NewsPicksアカデミアのゼミである、猪瀬ゼミの最後の回で、ビブリオバトルが行われたときに紹介された本だ。
紹介されなかったら、たぶん手に取ることはなかっただろう。感謝します。

ぐいぐい引き込まれる、描写。
まるでその場にいたかのような迫力で書かれた、津波が襲来する様子、気仙沼湾の重油タンクに火が付き、炎ががれきに飛び火して並みとともに迫りくる様子、保育園の子どもたちをはじめとする公民館での避難の様子が詳細に書かれている。
この辺が、猪瀬さんの取材力の凄いところだ。
日ごろから津波が来たらどうするのか、周到に準備され、避難訓練も欠かさず行っていた保育園の先生方と、園児たち。
私たちより、よほどしっかりしているのでは。
靴はどこに置いていたら良いのか、そんなことまで日常気にしたことなんかなかった。
全ては逃げる時のためだ。
訓練がいかに大事か。
私も仕事で訓練にかかわる。
年に1回やらなくてはならないから、という漫然な気持ちでやっていたことを、恥じた。

気仙沼の、公民館に避難した人たちを救う。
様々な偶然が、必然であった。
保育園の園長がロンドンの息子にメールをする。
「火の海、がんばる。」
息子はその母のメールを見て、Twitterでツィートする。
140文字という制限の中で、真に助けを求めるツィートをするにはどうしたらよいのか。
必死で考えて。
そして極めて簡潔で必要な情報が書かれたツィートをする。
なぜそんなツィートができたのか。
ロンドンで宝石を売る仕事を通じて、ユダヤ人にこの宝石がいかに素晴らしいかを論理的に説明する能力が身に付いたからではないか、と猪瀬さんは取材をしてわかったのだ。
そしてそのツィートを見た、過去にいろいろあったが今を懸命に生きる男性が、どうしたらこのツィートが力ある人に届くのかを考え、当時東京都副知事だった猪瀬さんのTwitterに飛ばす。
猪瀬さんは、そのツィートを見て、あまりに無駄のない完璧な140文字の内容に、
「これはデマではない。」
と感じる。防災局長と相談の上、夜明けにヘリを飛ばし、気仙沼の公民館上空まで行き、公民館の人々を救助する。

なんという偶然。そして人には、ここぞというときに役割が降ってくる。
そのときに自分にできる最善を尽くす。
偶然の必然はそうやって生まれるのだ。
この救助劇は、登場人物の誰一人欠けても成立しないものだった。

私は、市井に生きるただの人であるが、それでもきっと私にしかできないことがある。
職場の緊急登庁支援の運営訓練が来週行われる。
私は運営としてたくさん準備してきた。
年に1回訓練すればいいや、という気持ちでは絶対うまくいかないことはわかっている。
運営なんてうまくいって当たり前だから、ものすごく神経を使うが、きっとどこかで役立つに違いないと思う。
私にしかできないことが巡ってきたときに、きちんとやれるか。
毎日が準備だ。

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得子(なりこ)
得子(なりこ)です。このブログを運営している、大学生の息子を持つ働く母です。
ポルノグラフィティとbacknumberが好きです。
2015年4月からMBA取得のため、仕事をしながら大学院で勉強しました。
2017年3月卒業。MBAホルダーです。
2級ファイナンシャルプランナー技能士。
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