「いらっしゃいませ、ああ、お疲れ様でした。」
ママが、響子を笑顔で迎えた。
「あードキドキしました。喉が渇いたわー。ソルティドッグにします。」
「和田さんやないか。」
「あ、松田さん、こんばんは。」
響子がバーに戻ると、松田さんがいつもの席でウィスキーを飲んでいた。
「おー名前覚えてくれとる。嬉しいな。」
松田さんはニコニコ笑って言った。
「どうだったの、占いは。」
「えっ、まあまあでした。」
響子は恥ずかしそうに肩をすぼめた。
「いいこと言われたみたいね。シロさんは当たるから。」
「はい、私のこと金融関係でしょう?と当てたし、びっくりでした。ところでママ、冨田さんのこと、いろいろありがとうございます。お金貯めるためにいろいろ考えてるみたいです。」
「まだ貯めてないでしょう?」
ママと松田さんは笑った。
「まあ、まだ若いから、貯めるのも大事やけど、使うのも大事やからな。」
松田さんはウィスキーを飲みながら言った。
「使うのもですか?」
「そうや、和田さんも自分の好きなものを買う時、ワクワクするやろ。」
「はい、この前ブランドのバッグを悩んで悩んで調べて調べて、とうとう手に入れたんです。これ。」
と言って、響子は持っているバッグを見せてくれた。
「あら、けっこうするわよね。」
「そんなに高級なんか、それ。」
松田さんは、そのバッグの価値がよくわからなかった。
「はい、柔らかくて使いやすいんです。買う前も買ってからもワクワクでした。」
「そういう、自分のために使う楽しさも若い時に体験しておかんと。何のために働いてるのかわからんごとなるけんね。浪費と投資は違うけどな。」
「使う楽しさ。そうですね。」
響子は頷いた。
確かに、自分の働いて得たお金を貯めて、欲しかったものを買ったり、英会話を習ったり、というお金の使い方はとても楽しい。
それが浪費か、投資かと言われるとあやふやなところもあるけれど、よく考えて買ったものだから後悔はない。
しっかり貯めて、しっかり楽しむ。
裕二にも伝えなきゃ、と響子は思った。