「へええ、お金が貯まる方法ねえ。」
「気になるけど、冨田さん一人でって言われてるから、あとで教えてもらう。」
響子はお昼休み、麻子と控室で弁当を食べながら昨日の報告をした。
「でさあ、いいかげん冨田さんはやめたら。下の名前で呼ばないの?」
麻子がニヤッとして言う。
「あ、うん。」
響子はちょっと恥ずかしそうに卵焼きをほおばった。
「しかし、5000円も貯めてないのか。大丈夫?彼。」
麻子が呆れて言う。
響子も実はその辺が気になった。
「うちの銀行員たちは、そりゃしっかりしてるわよ。特に小久保さん。」
「ああ、先週積み立て増やしてたわよ。私、手続きしたから知ってる。小久保さん、ご結婚が近いのかしら。」
響子はのほほんと言う。
いや~たぶん響子にお金の管理をしっかりする頼もしい男性だと思ってほしいんだと思うよ、と麻子は言いたかったが言えない。憶測だから。
「あっ交代の時間。お化粧直してすぐカウンターに戻る。お先。」
麻子はバタバタと弁当箱を片づけ、歯磨きに行った。
月末の週、火曜日に裕二は一人でバーに行った。
8時半過ぎ、行くと松田さんがもう座っていた。
「お、お疲れさん。」
松田さんが気さくに声をかける。
「どうも。」
裕二は会釈をして、ママからおしぼりを受け取った。
「で、積立の手続きは完了?」
「はい、あれから地下鉄に乗る前にドトールで響子ちゃんに教えてもらって。」
「ああ、響子ちゃんって言うんだ、和田さん。」
ママはふっと笑って言った。あ、ママの前で響子ちゃんと言うのは初めてかも。
「それから、ペイペイにチャージはどうなったの。」
「あ、ちゃんと40000円しました。今まで全く意識しなかったけど、40000円が上限だと思うと、使うときもちょっと意識しますね。」
裕二はスマホを取り出して、ペイペイの支払い履歴を見返しながら言った。
意外と、素直だなとママは思った。
「たぶん今日は給料日後だとは思うけど、先月もキャッシングしたんだったら、その穴埋めからスタートだから、既に残高は心もとないのでは?」
ママはずばり聞いてきた。そうだ。結局ボーナスが入らないかぎり、リセットできないのだ。
「このままだとまた給料日前に3万くらい足りなくなさそう・・・。」
裕二は力なく言った。
「このままじゃ、永遠に結婚できないわね。それでもいいの?」
ママがキッとにらんだ。
結婚?
いやまだ考えてなかったけど、響子ちゃんは本当にいい子で、できればこのまま付き合ってゆくゆくは・・・。
「あの、結婚ってどれくらい費用がかかるんですか。」
裕二は恐る恐る聞く。
「イマドキはどうなんでしょうね。結納金は、私は100万だったわよ。」
「ひゃ、100万。」
裕二は驚いた。俺は、まだ5000円の積み立てを始めたばかりだ。ひゃくまんえん・・・。