夜中の2時過ぎ、シロさんがバーにやってきた。
「疲れたー。」
シロさんは荷物を椅子にどかっと置いて座り、うつ伏せになった。
「お疲れ様でした。ビール?」
「そうね、喉渇いた。」
シロさんはビールと聞かれて顔を上げた。
ママはさっとビールとチーズの盛り合わせを出し、シロさんにビールをついだ。
「ママもどうぞ。」
シロさんは、ママからビール瓶を取り、コップについだ。
「お疲れ様でした。」
2人は乾杯した。
「シロさんは人気ね。」
「何言ってるの。今日ママのお客様もいらしたわよ。」
「ああ、女性2人ね。」
「かわいいわよね。好きな人と結婚したいってみんな夢なのね。好きなら好きって言えばいいのにね。」
シロさんは笑う。
「そうは簡単にいかないから、シロさんのところで占ってもらうんじゃない。」
「そうね、選ぶ、選ばないを決めるアイデアになるのが占星術だからね。惑星の運行のデータに基づく体系だった理論だから、迷った時は来てもらっていいんだけどね。決めるのは自分なんだから。」
シロさんはビールを一気に飲んで、フーッと息を吐いた。
「ママも私のところに占いに来てからの付き合いだもんね。」
「そうねえ。」
「最近どうなの、息子さん。」
「ええ、まじめに働いてるわ。蕎麦屋さんで修行中。」
「蕎麦屋?へえ、いいわね。今度食べに行く。」
「まだ皿洗いしかしてないらしいわよ。」
ママの息子さんは25歳だ。
大学卒業後、一般企業に就職した。
ノルマに追われるばかりに、自分でその商品を買うことでノルマを果たすようになり、お金が回らず、キャッシングから闇金に手を出して、どうにもならなくなって親であるママに泣きついてきた。
もっと早く言ってくれればと嘆いていた。
ロードスターは売り、ママの退職金でどうにか借金を精算した。ママは地場大手の会社員だったが、退職に関して会社に未練はなかったという。
逆にやめるきっかけができてせいせいしたらしい。
旦那さんが仕事を辞めるよりはママが辞めてお金を作った方がいいという判断だった。
退職金の残りで、中洲にバーを開くことにしたのは、悩み事や迷っていることがある人が話せる場を作りたかったからだ。
たまたま私のところにきたママが、今後について見てほしいというので占い、やりたいことやったらと言った。
ママはその後、中洲にバーを開いていたのだ。